(林) 先生、今回は針のお話をお願いしたいと思います。前回のハサミと同じように、針も用途によって使い分けをしますが、初めにぐし縫い(ピースワーク)に使う針についてお聞きしたいと思います。
私はここに習いにくるまで、ぐし縫いにアップリケ針を使うことを知らなかったので、普通の縫い針の太くて長い針を使っていたんです。でも、アップリケ針を使うと細かく縫えると教わって、使ってみたら本当に細かく縫えるので、針でこんなに違うのかなってびっくりしたんです。
(斉藤) いろいろな所に催事に行ってデモンストレーションをしていると、一般のお客様の中には、針なんて何でも良くて、それこそ、ピースワークもキルティングも一緒の針で良いと思っている方がすごく多いんですよね。やっぱり針も用途用途で替えていかなくてはいけないのよ。それはもう、違いというのは顕著に現れますよね。
単純に私がアップリケ針をぐし縫いに使っているというのは、細さと長さが丁度自分にあっているからなんです。細いので布に対して抵抗力がないから、それだけ滑らかに入っていく。針が太いと布の間を通って行く時に、きついわけですよね。アップリケ針は、細くて短いので、指貫を使って運針の作業をするときに、丁度針のお尻が指貫に当たるのね。それに、針が長いと針の先に指が届かないんだけれど、アップリケ針は針先にも指が届くので、長さが丁度いいの。
(林) 今、キルトパーティで取り扱っているアップリケ針は、今回新商品でご紹介するピースメーカーのアップリケ針を含めて、4種類あるのですが、それぞれの特徴や使い勝手を教えてください。
(斉藤) やっぱり、アップリケ針の中でも何をするかによって選ぶ針も違ってくると思うんです。
針の硬さで分けてお話しましょうか。
まずは、クロバーのアップリケ針と新商品のピースメーカーのアップリケ針。これは同じ硬さです。単純に生地二枚を縫い合わせるぐし縫いには、これ位がいいでしょうね。この二つは縫った感じも全く違いはないので、どちらを選んでいただいても大丈夫です。でも、同じお値段でピースメーカーの方が倍量入っているから、かなりお得かしら。(笑)
そして、コットンボールのアップリケ針なんですが、私は以前、こちらの針をぐし縫いに使っていて、
皆さんにもおすすめしていたんです。とても細くてしなやかなので、縫いやすかったんだけれども、少し前に規格が変わって、私が使った感じで言うと現在の針はちょっと硬いのね。
なので、1cmの四角つなぎをたくさんしたような、縫い代が集まっている所を縫うのでしたら、
こちらのほうがいいかもしれないです。
それから、絆の針は、この中では一番硬い針になります。例えば厚い物をまつる時などはとても便利なんです。バッグの底の縫い代をバイヤスで包んで処理するときなどは、厚いから跳ね返ってきたりしますよね。そういう時は絆を使うと、他のアップリケ針みたいに折れそうな感じがないので、安心してまつっていけます。
(林) 絆の針は私も愛用しています。普通にパイピングをまつる時も、とても縫いやすいので効率よく作業が進みますね。
(斉藤) そうね、でも、お客様に縫い針はどれですかって聞かれると、クロバーかピースメーカーのアップリケ針をおすすめするんだけど、でも、何もかもそれでっていうと頼りない。厚いものをまつる時などは、折れそうで怖いからつい力を加減しちゃう。そうすると目が粗くなるのよね。だからそういう時には絆の針に替えるとかして、ちゃんと使い分けていくっていうのがいいでしょうね。
(林) ちょっと話はそれますけど、細かい針目でぐし縫いをするには、このアップリケ針だけでは駄目でセル巻き皮の指貫は絶対必要ですよね。
(斉藤) もちろん!指貫は絶対必要よ。運針は出来るようにしましょう。私は昔ながらの皮の指貫を使っているんだけれど、洋裁をされる方は金属の指輪みたいな物を使う方もいらっしゃるの。それは間違いではないんだけれども、針と金属同士が触れ合うことに違和感があるし、すれて糸が切れるので、私は皮のタイプを使っています。
一昨年、フランスで講習会があった時に、フランスの方にも運針を勉強してもらいましょうと思って、この指貫をもって行ったの。まずは指貫の後ろの糸を切って、自分の指に合わせてサイズ調整するところから始まって、二時間くらいはとにかく運針の練習をしたんです。そしたら、結構縫えるようになってきたの。ですから、日本人のみなさんは出来るはずなのよ~。(笑)
(林) フランスにはそういう道具などはないんですか。
(斉藤) ミシンを使われる方が多いのかもしれないわね。中にはキャップ式の指貫を使われる方もいらっしゃるんだけど、一回ずつ針を引き抜いている方が多いみたいね。運針っていうのはないんです。だからウンシンって言う言葉もすごく新鮮だったみたいで、ワインを飲む時も「ウンシーン!」って言ってみんなで乾杯したのよ。
(林) 個人レッスンを受けにこられる方の中に、ぐし縫いしてくださいって言うと、キャップ式のシンブルをはめる方が必ずいらっしゃるんです。パッチワークはすべてシンブルを使うと思い込んでいる方が多いですね。シンブルはキルティングの時に使うので、ぐし縫いは皮の指貫でして下さいっていうと、大抵の方が嫌がります。(笑)
(斉藤) キャップ式だと、何針か縫ったら、絶対針を抜かないといけないんですよ。でも、こちらの指貫は、2mでも3mでも糸が続く限り縫い続ける事ができるんです。やっぱり、たくさんの作品を作っていこうと思ったら、運針が出来るっていうのは、とっても重要なことなの。誰でもすぐ慣れます。もう2時間頑張ってもらえたら、運針できるようになるから。そしたらもうしめたものですよね。苦じゃなくなるもの。
(林) 私もまったくこの指貫が使えない状態で習いに来てしまったのですが、出来ないことが悔しくて、とにかく練習したんです。ここが出来ないと、パッチワークは出来ないんだと自分に言い聞かせて。頑張ればすぐにコツが掴めるんですよね。今ではこの指貫がないとひと針も縫えません。前はいったいどうやって縫っていたのか思い出せないんです。
(斉藤) そうね、痛いわよね~。(笑)
(林) 是非、この指貫とアップリケ針で細かく縫えるということを皆さんに体験していただきたいですね。このコーナーでも指貫とシンブルを取り上げたいと思っていますので、その時はもっと詳しいお話を聞かせてください。
(斉藤) そうね、そうしましょう。
(林) 今度はアップリケをする時ですが、どのように針を選んだら良いですか。
(斉藤) 今、マンスリーキルトをしているでしょ。あれはとても細かい葉っぱをたくさんアップリケしていくんだけれども、ああいう尖った角を出したいときは、細かく折り込んでいくから、しっかりした針を選んだほうがいいの。だから、絆を選んだほうが良いでしょうね。
でも、ハワイアンキルトみたいに、ただひたすらに一枚布をアップリケしていくんだったら、そこまでの硬さは必要ないから、普通の硬さのアップリケ針の方がいいですね。どんな形のものをアップリケするかでも、針を替えないといけないんです。
針のおはなし 1/3